蛍火心中
江戸時代のとある場所。
一軒の陰間茶屋(男色楼)に悪名高い盗賊がやって来る。
そこで一人の美しい陰間(男娼)に目を奪われた盗賊は、彼を指名する。
少女のように儚げに微笑むその陰間の名は了。
生まれつき白い髪ゆえ疎まれ、彼はここに身を売られたのだった。
同じ様に薄幸な盗賊は了に心引かれ、必ず身請けしてやると約束する。
盗賊は身請けする為の金を手に入れる為盗みを重ねるが、あともう少しで身請けの額に届くという日、些細な失敗から奉行所に捕まり命を落としてしまう。
盗賊が身請けの為の金を用意すると約束した日、了はずっと彼を待ち続けていた。
しかし盗賊の死は既に知らぬ者は無く、誰もが了にもう彼は来ないのだと諭すが、了はその言葉に耳を貸さず、ひたすら盗賊を待っていた。
約束の時刻、暮れ六つの鐘が鳴った時、茶屋に盗賊が姿を現す。
死んだ筈の盗賊の出現に皆驚くが、盗賊は約束の金を主人に渡し、了を迎えに行く。
了は喜んで盗賊に付いて行こうとするが、陰間仲間の鞠に、あれはもう生きた人間ではない、付いて行ったらならばもうこの世には戻っては来られない、と止められる。
しかし了は首を振り、例え戻って来られなくとも構わない、彼と一緒ならば地獄に落ちるのも怖くない、と微笑み、盗賊の亡霊に付いて茶屋を去って行く。
鞠は、茶屋の前の橋を連れ添って渡る二人の後ろ姿を見送るが、橋の向こう側がなぜか霧も出ていないのに薄闇に翳んで見えない。
そして薄闇の向こう側からポツ、ポツと淡い光の点が浮かび上がって来る。
それは蛍の光だった。
その蛍の光に導かれるように、二人は闇の向こう側に消えていった。
固く、手と手を握り締めながら・・・