缶コーヒーとマフラーとB―マリクとマリク―

『さびしんぼ』

 

〔リシドの帰りを待つ二人。表マリクは缶コーヒーを自分の分だけ買って飲んでいる。闇マリクは自分の財布を持っていないので買えない。

雪がちらついてくる曇天。闇マは雪は初めて。余りに寒い寒いとうるさいのでしぶしぶ自分のマフラーを巻いてあげる表マ。

そこで闇マがまた調子こいた事を(おそらくやりたいとかなんとか)言ったので表マ怒る。ちょっと喧嘩中?〕

 

「主人格サマァ、寒いな・・・」 (ブルッ)

「・・・」 (無視)

「何か白いモン降って来たぜ・・・?寒くて凍えちまう」 (カタカタ 震えている)

「・・・」 (無視)

「あったかくていい匂いがするんだけどよぉ・・・オレにも一口くんない?」

「・・・」 (無視)

「・・・何か言えよ・・・なぁ!」

「・・・」 (無視)

(しょんぼりと首をマフラーにうずめる) 「・・・」 (カチカチカチ まだ震えている) 

「・・・」 (飲むのを止めてちょっと考える)

「ヘクシッ・・・・・・ズズ・・・」 (クシャミ)

「・・・」 (前を向いたまま無言で飲みかけの缶コーヒーを差し出す)

「・・・?」 (小首を傾げて)

「・・・欲しいんだろ?やるよ」 (そっけなさを装ってぶっきらぼうに)

「・・・主人格サマ・・・」 (鼻をすすりながら缶コーヒーを受け取る)

「・・・」 (前を向いて顔をあくまで合わせない様にしつつ、ちょっとドキドキ)

(一口飲んで) 「・・・あったかい・・・」

「・・・」 (自分が飲んでしまってもうそんなにあったかくないかもと思って、もう一本買ってくれば良かったかなとちょっと思う)

「主人格サマ・・・」 (甘えるような声で) (後ろを振り返ってマリクを後ろから抱すくめる)

「?!」 (びっくり)

「くくっ・・・どうせだったらもっとあったかいのがいーなぁ☆今度は主人格サマちょーだい♪」 (嬉しそうに甘く耳を噛む)

「調子に乗るな!!」 (バキ) (真っ赤になって怒ってアッパー)

「!・・・っ・・・いいじゃねーかよ、ケチ!まだ怒ってんのか・・・?」 (また後ろを向く)

「ボクはまだお前を許したわけでも、お前の存在を認めた訳でもないんだからな!お前が何と言おうと父上を殺したのはお前なんだし!」 

「・・・知るか!テメエだって同罪だろ!・・・ああもういいよ!テメエなんかに認めてもらわなくたってよ!」 (拗ねてまた元の背中あわせに)

「・・・」 (言い過ぎたかと思うがもう遅い)

「・・・」 (強がってはみたが、凄く寂しい。俯いてマフラーに深く顔を埋める)

「・・・」

「・・・」

(雪がしんしん降る。だんだん強まってきて、2人の薄金の髪が白くなり始める。)

「・・・」 (くそー!リシド何やってんだ早く来いよ!!)

「・・・」

「・・・」 (気になる。後ろをちょっとうかがって見る。闇マは俯いたまま。表情は見えない)

「・・・へクシッ・・・」 (またくしゃみ)

「・・・」 (後悔する。寂しくなる。後ろを振り向いてみる。)

「・・・」 (闇マはそれに気付かないで顔をマフラーに埋めたまま)

「オイ」 (呼びかけてみる)

「・・・」 (返答なし)

「・・・?」 (不安になる)

「・・・」 (動かない)

「オイってば!」

「・・・」 (返答なし)

「オイ!どうしたんだよ!熱でもあるのか!?返事しろよ!」 (肩をつかんで揺さぶる。めちゃくちゃ心配。激しく後悔。) 

(何であんな事言ってしまったんだろ・・・。雪なんてこいつは初めてなんじゃないか!・・・ボクだって二度か三度目だけど・・・。

どうしよう・・・こいつが風邪でもひいたらボクの所為だ・・・!!)

「・・・ククク」 (マフラーの中からくぐもった笑い)

「?!」

「くく・・・あはは、オレの事心配してくれたんだ!ウレシー!!主人格サマァ!」 (涙目で大笑い)

「な・・・なな・・・」 (真っ赤に)

「やっぱ大好きだぜえ!」 (再び抱きつこうと)

「こんの・・・バカ!!」 (バキッ 見事に決まる)

「うぐ・・・っ」 (地面に倒れる)
「いてえなあ・・・」 (それでも嬉しそう)

「最低だお前!勝手に死んでろ!!」 (立ち上がって歩き出そうとする)

「・・・」

「・・・?」 (てっきり追いかけて来ると思った闇マが倒れたまま動かないので足を止める)

「また芝居か?ボクがそう何度も騙されると思ってるのか!!」

「・・・」

(返答がないので振り向いてみる。倒れた闇マは相変わらずマリクの方を向いたまま笑っているが、様子が変。)

「・・・オイ、まさか本当に熱があるとか言わないだろうな?」

「どうだかねえ」 (また人をおちょくったような返答)

「・・・!ああ、お前は風邪なんかひかないよな!何とかはひかないって日本では言うらしいし!」

「・・・」

(やっぱり様子が変。妙に顔が赤く、息遣いが荒い。やっぱり心配。跪いて額に手を当ててみる。火の様な熱さに思わず手を引っ込める)

「・・・!!お前、凄い熱じゃないか!」

「嬉しい・・・ねえ、主人格・・・サマが・・・そんなにオレの事・・心配してくれ・・・るなんてなあ・・・」 (へらへらと笑いながら、覇気は無い)

「バカ黙れ!そんな事言ってる場合じゃないだろ!もう・・・ホントにお前は・・・」

「・・・厄介モンだろ?」 (笑いながら)

(その自虐的な言い方に絶句。口調も表情もいつも通りなのに、どこか寂しげ)

「・・・ああそうだよ!」

(あー!こんな事言いたいんじゃないのにい!!)

(そう心の中で悶絶しながら闇マを抱きかかえようとする)

「主人格サマ・・・の方から・・・抱き締めてくれるなんて・・・クク・・・嬉しいなあ・・・やっとオレの事、好きになってくれた・・・?」

「バカか!!もうホントお前バカだろ!このまだと死ぬぞ!ホントに!!死にたいのか!!」

「ああ・・・それもいいかもな・・・主人格サマの腕の中だったら・・・」

(本気とも冗談とも取れない台詞に絶句。)

「・・・何言ってんだよ・・・もう嫌だよ・・・あんな思いするのは・・・」

(マリク、闇マが消えかけた時の事を思い出す。それだけでなぜか目頭が熱くなってくる)

「ふざけんなよ!ホント酷い奴だ・・・お前は・・・勝手に現れて、勝手に父上殺して、勝手にボクを犯して、勝手に遊戯達と闘って、勝手に・・・

勝手に死ぬなんて、本当に自分勝手でどうしようもなく嫌な奴だよ!!バカ!!」

「オレ・・・死んでねえけど・・・。泣くなよ・・・ああ・・・いっつも泣いてんなあ、オレと一緒の時の主人格サマ・・・そんなにオレと居るの嫌・・・?

やだよ、なあ・・・お前の大事な・・父上様殺して・・・リシドや・・・姉上様殺そうとして・・・お前にも・・・酷い事いっぱいした、もんなあ・・・

あ〜あ、嫌われて当然かあ・・・はっ・・何か・・・バッカみてえ、オレ・・・」

(熱の為に朦朧として最早何を言っているのかわかっていない闇マ。)

「バカ!泣いてなんかいない・・・!・・・嫌・・・なわけないだろ!一緒に居るの嫌な奴なんかの為に泣いたりするモンか!!」

「・・・」 (ちょっと目を見開いて。そしてとても嬉しそうに笑う。)

「泣いてないって・・・言ってる事・・・矛盾・・・して、るぜ・・・?」

「うるさい!!・・・っ」

潤んだ2組の紫電の瞳が交錯して。

 

「マリク様ー!!お待たせしました!・・・あれ?」

リシド帰還。

 

モドル