「あああっああああ・・・」
もはや声にすらなっていない。
闇マリクはなおも容赦なくその尖った鞘の端をマリクの体内へ押し込めていく。
「アッあっアッあっアあっ痛いイたっアアあっやッやだあっ」
ぐちゅぐちゅと嫌な音を立てて体の中に少しずつ異物が深く入っていく度に、マリクの体は激しく上下した。
尖った鞘の先が内部の肉壁を抉り、入り口から赤い筋が流れる。
余りの痛みに意識が遠のき、しかし再び体内を抉る痛みに現実に引き戻され、意識を失う事すら出来ない。
そう、この痛みも6年前と同じだった。
自分の実の父によって植え付けられた恐怖と苦痛。
その後その傷を抉るような事ばかりしてきたのは、逆にそこから逃げたかったからに他ならない。しかし、結局同じ所をぐるぐる回っていただけなのか。
「あああッ・・・ううっあウぁ・・・アアアッ・・・」
見開かれた大きな瞳からは苦痛と生理的作用から涙がとめどなく溢れ、褐色の肌には滝のように冷たい汗が浮き出、喰いしばった歯の間から唾液が流れ落ちる。
「あっぐっぐう・・・ぐっ・・・」
闇マリクは舌を噛み切りそうになっているマリクの口に、刃のついている方の千年ロッドの柄を横向きにして押し込め、吐き出せないように紐で止めた。
そう、それは6年前、彼の父親が施したのと同じやり方だった。
「うぐ・・・う・・・う・・・」
苦痛と衝撃で朦朧としているマリクに、闇マリクは甘く囁く。
「気持ちいだろう・・・?主人格様・・・なあ・・・?ずっとこうされたかったんだろう・・・?」
気持ちいい?
マリクは思った。
そんなわけ・・・
こんな痛いのに・・・
リシドやグールズの連中は自分の言いなりだった。
バクラでさえこんな事はしなかったのに。
屈辱と苦痛で頭がくらくらする。
言葉に出さなくとも、自分の『闇』はわかるらしい。
くくくとまた笑う声が聞こえる。
「体の方が正直みたいだな・・・」
闇マリクは、鞘を持っていない方の手ですでに固くなっているマリクの陰茎を弄んだ。
爪を立て、亀頭を割って、指で弄り回す。
それと同時に奥まで達した千年ロッドをぐちゃぐちゃと動かす。
「イイだろ・・・?なあ・・・?」
「んっ・・・グ!」
気持ちいい?気持ちいいわけないのに。
なのに何故、こんなに・・・
奥の奥まで到達した痛みは確かに、僅かながらの快感を含んでいた。
「んん・・・っ!!」
認められない、嫌だ、マリクは必死で首を振った。
「まだイかせる訳にはいかないんでね。」
闇マリクはズルズルと鞘を引き抜き始めた。
「んんんっ・・・!」
その衝撃でまたマリクの体は仰け反ってしまう。
凄まじい苦痛と快感が一気に押し寄せ、体の芯が熱く火照るのをマリクは感じた。
だが、固くなった陰茎の先は闇マリクの指が入り込み、きつく押さえ付けられて解放してやる事が出来ない。
指の間から薄い液の筋が流れるが、それでは到底楽にはなれない。
痛みとは別の苦しさに、マリクの体はびくびくと痙攣した。
「んんっ・・・んっ・・・ん・・・」
マリクは必死で顔を動かし、熱で潤んだ瞳を自分の上に乗っている存在に向けた。
もう・・・やめて・・・お願い・・・
声にはならないが、ここは精神世界。
ましてや彼は『自分自身』なのだから、意志は通じる。
マリクは許しを乞うた。
やめ・・・て・・・
その様子に、闇マリクは口を大きく開けて笑った。嬉しそうに。
それはマリクが自分の敗北を認め、彼の元へ跪いた瞬間だった。
「あはははははは、いいなあ、もっと泣けよ、イきそうなんだろ?気持ちいいくせに。お前の性感帯を知り尽くしてるのはオレだけなんだからなぁ。
言ったろ?無駄な抵抗は止せって。お前本当にマゾだなあ、はははあ。まだまだ焦らしてやりたい所だが、こっちももうそろそろ限界なんでね。」
そう言って闇マリクは一気に鞘をマリクの体から引き抜いた。
「んんんんっ!!」
ビクン、と体が跳ね、だが、闇マリクの所為で体は解放されない。
辛くて、体ががくがくと震える。
助けて・・・もう・・・嫌・・・
「今楽にしてやるよ・・・」
闇マリクはそう言って自分の勃起した陰茎を取り出した。
そして。
「んんんっんーっ!」
冷たい鞘の感触とは全く違う、熱い火の様な塊が押し込まれ、マリクはうめいた。
鞘によって抉られた体内に違う異物が入り込んでくるのは更に痛みを呼んだ。
だが、もう痛いだけではない。
それが動きを速めると、それに合わせて体ががくがくと揺れる。
もはや苦痛や快楽など通り越した衝撃がマリクを揺さぶる。
闇マリクもその極地に居た。
もう耐えられない。
瞬間、闇マリクはきつく握り締めていた手を離した。
何かが弾け、何もかもが真っ白に白濁し、そして暗転した。
闇の中に、少年が二人いた。
全く同じ顔、全く同じ髪、全く同じ体、全く同じ瞳をしているのに全く異なる二つの影。
一人は寝台に死んだように横たわっていた。
貪り尽くされた褐色の体は傷だらけで、白く濁った液と汗と滲んだ血に濡れ、縛られた両手足首は綱が擦れて蚯蚓腫れになっていた。
轡を嵌められた口からは唾液の跡が残り、何度も噛み切った唇には固まった血がこびり付いていた。
紫色の眼は完全には閉じておらずに虚ろに宙を見、幾筋もの涙の痕が頬を伝っていた。
そんな少年をもう一人の少年はじっと見詰めていた。
そして、その薄金の髪に手を伸ばす。
さらさらと砂金のように流れるその美しさに眼を細めながら、少年は呟く。
「・・・お前がどんなに否定しても、オレは知ってる・・・お前がずっと壊れたかったことなんてな・・・
偽り続けるなんて、お前には出来ないんだよ、主人格様・・・。」
そうして、愛しそうに、そして残忍に、薄く笑って闇は呟く。
「お望み通り、壊してやるよ、主人格様・・・お前の望むように。全ての命を・・・破壊し尽くしてやる。
お前が本心で望んでいた通り父上様を葬った時みたいにね・・・。そして・・・お前も跡形も残らないように喰らい尽くしてやるよ・・・。」
あははははははははははははははははははははは
暗闇に、虚ろな哄笑が響き渡る。
その哄笑をぼんやりと聞きながら、マリクの乾いたはずの瞳から、また一筋の涙が零れた。
[続]