「主人格様・・・」
いとおしそうに、闇は呟く。
大切な人を、壊したいほど大切な人を、その腕に抱きながら、何回も呼ぶ。
「此処に居ろよ・・・?ずっとな・・・。闇がもうすぐお前を喰い尽くしてくれるから・・・。そうだな、それまでずっとヤっていようか。クク・・・」
そう言って、躰を離す。
「そうだなあ・・・どうせなら・・・あいつにやったのと同じ事をして貰おうか・・・」
「・・・?」
分からないと言った様子のマリクの髪を掴んで彼の顔を自分の脚の間に近づける。
「・・・しゃぶれよ。」
「・・・!」
だが、マリクに嫌だとは言えなかった。
闇マリクは獏良の躰を弄んでいる時にすでに勃っていた自分の陰茎を取り出した。
それを無理矢理表マリクの口の中へ押し込む。
「ふ・・・っんぐ」
「ちゃんとやれよ?」
後頭部を掴んで喉の奥まで硬くなった陰茎を一気に入れた。
「んん・・・っ」
苦しくてもがいているマリクの背中に足を乗せて押さえ付ける。
「ほらほらあ、ちゃんと舌使えよ。」
「んんーっん・・・」
ぐいぐい押し込められる苦しさに、マリクはもう泣いている。
闇マリクは、その締め付けが気持ち良くてならなかったが、哀しくなった。
なぜだか、分からなかった。
(でも、これじゃいつまで経っても愛する人に本当の気持ちは伝わらないよ・・・)
獏良の言葉が頭から離れない。
どうすればいいのか、本当に闇マリクには分からなかったのだ。
マリクの心の闇、むしろ病み、負の感情から生まれ、歪な闇の中でしか生きられなかった闇の存在であるマリクに、どうすればマリクに愛されるのかなどと言う方法が分かるはずも無かった。
少しでも、優しくしてあげれば、少しでも、本心を言葉で伝えていれば。
だがそんな当たり前のような事は、生まれてから6年間心の闇に幽閉されていた者には分からない。
マリクの眼を通して外の世界を見ていたものの、そもそもマリク自体が成長できていないのだから、闇マリクもマリクが彼を産みだした10歳の時のまま、根本的な年齢は成長できていないのだ。
だから、ただ、むちゃくちゃに貪り尽くす事しかできなかったのだ。
思えば、彼の知っている愛情表現はそれだけだった。
マリクの愛した男、愛して欲しかった男、
父親も、リシドも、そしてバクラも、闇マリクにとって認識できる共通点はマリクを抱いたと言う事だけだったのだから。
それは、勿論マリクの方にも問題はあった。
トラウマと言うのは、受けた人間が同じ状況を何回も繰り返そうとしてしまうと言う悲惨な副作用を持っている。
父親に受けた虐待は、彼の中でどうしようもなく悲惨な行動となって繰り返される事になってしまった。
取り止めも無く躰を求めるマリクにも、愛情を求める行動はそれしか無かったと言える。
だから、2人とも間違っていたのだ。
だが、誰にそれが責められよう?
仕方の無いほどの、闇だった。
ただ、それはそのまま、 悲劇的 結末 に通じていた。
それに気付く事無く、闇はその色を濃くしていった。
「・・・あ・・・っくう・・・っ」
マリクの口の中に射精し、闇マリクは笑った。
何処か、空虚に。
「今度は、主人格様をイかせてやるよ・・・そうだな・・・ここが『墓穴』なら・・・更にその奥の主人格様の『穴』の中へ入っていってやるよ」
一気には飲みきれず、吐き出そうとしているマリクの口に舌を入れて、口移しで自分の精液を口に含んだ。
そして今度はマリクを四つん這いにさせ、『穴』の周りにそれを流し込み、指で押し入れた。
「うう・・・っ」
衝撃に、マリクがうめく。
その声だけで、すぐにでももう一回勃ちそうだ。
左手でマリクの陰茎を弄びつつ、右指を、一本、二本と中に入れていく。
その度にがくがくとマリクの躰が揺れる。
「う・・・っふうっ・・・」
『穴の中』はもうかなり貪り尽くされている。
快楽より痛みしか感じない。
それでも耐える。
抵抗しても無駄な事は良く分かったからだ。
それでも、いつもよりも少し優しいような気がする。
なぜだろう?
分からない。
「ああ・・・もう・・・そろそろ・・・」
闇マリクは耐えられなくなり、指を入れたまま自分のもう一回勃起した陰茎を捻じ込む。
「うああっ・・・はあっ・・・あっあっ・・・ああっ・・・」
指とは比べ物にならない衝撃に、マリクはびくんびくんと躰を動かした。
・・・まだ自分の躰が反応するのが不思議なくらいだ。
もう何度目か分からない。
この『闇』に幽閉されてから、一体何度目の行為なのだろう。
息をつく暇も無い。
気を失って倒れれば無理矢理覚醒させられ、また捻じ挿れられる。
初めの行為も相当酷かったが、抵抗すればする程激しさは増し、性器以外のモノは挿れられるわ、縛られるわ殴られるわ、果ては拷問デッキまで持ち出してとことん凌辱された。
グロテスクなモンスターに凌辱させられた事すらあった。
いっそ死んでしまいたいと何度思ったか。
だが、いつしか苦痛にも慣れる。
早く一回一回の行為が終る事を祈りながら、黙って甘んじていればそれ程でもなくなる。
それに・・・
「ああっ・・・うあ・・・・っ」
「はあっ・・・」
同時に到達し、白く濁った液体が吐き出される。
片方は片方の体内へ。もう片方は片方の手の中へ。
「ううっ・・・」
痛いのか、気持ち良いのか、それすらも分からない。
ただ、もうしばらくは勃つのさえままならないだろう。
もう出すモノも出し尽くしたと言った感じだ。
・・・向こうがどうなのかは知らないが。
向こうもかなり疲れているらしい。
当たり前と言えば当たり前だ。
化物のように思っていたが、本来は自分と同じ人間のはず。
更にここは精神世界とは言え、バクラに刺された背中は確実に傷だ。そう言えば脇腹も怪我していた様だが・・・。
「ああ・・・主人格様・・・」
まただ。
どうしてこう、どんなに酷い行為の後でも、こう愛しそうな声で呼ぶのだろう。
そして、いつからだろう。
吸血蛆だかなんだかそんなモンスターにぐちゃぐちゃに犯されて、もう死んだように横たわっていた時だ。
「主人格様・・・」
愛しそうに、呼んで、そっと抱き締められた。
壊れ物を扱うように、優しく。
頭がハテナでいっぱいになった。
何なんだろう?
こいつは、ボクを憎んでるんじゃなかったのか?
ずっとここに閉じ込めて、こいつの大好きな破壊と殺戮をやめさせたボクを・・・。
だから、欲望のままに貪ってるんじゃないのか?
ボクが苦痛に喘ぐさまを見て、狂喜してるんじゃないのか?
だったらなんで、こんな、声で・・・
意識が朦朧としている。
闇マリクが何か言っている。
だが、意識は急速に眠りへと落ちていった。
何も聞こえない、精神世界の更に奥の穴の底へ。
「愛してるよ・・・主人格様・・・」
その言葉は、マリクの耳には永遠に入って来る事は無かった。
[続]