「う・・・ああああああ!!!」

 

闇マリクは苦痛に耐え切れなくなったような悲鳴を上げた。

両手で頭を抱え、小さな駄駄っ児のようにかぶりを振った。

 

「う・・・うるせえ・・・!!黙れ・・・!!」

 

追い詰められた闇マリクは千年ロッドから鞘を抜き、刃を振り上げた。

 

次の瞬間。

 

鮮血が闇に舞った。

 

「・・・?」

 

闇マリクは呆然としていた。

自分に何が起きたのか分からなかったのだ。

 

背中が熱い。

焼けるようだ。

 

「・・・3000年の盗賊王様を、なめんじゃねえよ。」

 

(―バクラ!!)

 

迂闊だった。

まさか奴があの呪縛を解いて逃げられるとは・・・!!

 

背中に刺さったサバイバルナイフを取ろうともがくと、バクラは一気にそれを抜き取った。

 

「ぐうっ・・・!!」

「ケッ!ざまあみろ!!」

 

バクラは隙を突いて、獏良を抱きかかえた。

 

「貴様・・・逃がすか・・・!!」

 

闇マリクは手を伸ばした。

 

だが。

 

その前に立ち塞がった者がいた。

 

「バクラ!!早く逃げろ!!」

 

「!!」

 

それは。

もう完全に支配したはずの。

自分の物にしたはずの。

 

「マリク!」

 

バクラが叫ぶ。

 

「早く行け!!ボクの事はいいから!!」

 

そう言って、立ち上がろうとする自分を必死で押さえ付けてくる。

 

「・・・。」

 

(でも、これじゃいつまで経っても愛する人に本当の気持ちは伝わらないよ・・・)

 

「うわああああ!!」

闇マリクは叫んだ。

 

「邪魔するなあ!!なぜオレの邪魔をする!?何でだ!!いつも・・・いつも・・・!!」

 

その体を除けようとして、逆に抱き締める。きつく。もっときつく。

このまま息の根を止めてしまおうか。

そうすれば。そうすれば、今度こそ自分の物になるのか。

 

闇マリクは気付いた。

なぜ自分がこれほどまで獏良とバクラに拘ったのか。

 

・・・双方とも、マリクと、自分の主人格と肉体関係を持った者だったから。

特に、バクラの事は、どうしても許せなかった。

・・・それは。

 

主人格が、愛した男だから。

 

「早く逃げろ!!」

 

バクラは心の部屋の入り口まで来て一瞬躊躇した。

何故だかは分からない。

だが、一瞬考えてしまったのだ。

ここで自分達が逃げたら、残されたマリクを闇マリクはどうするだろうかと。

おそらく、今度こそは・・・

 

殺してでも、自分の物にするだろう。

 

だが、そんなバクラの逡巡を見て取ったのか、マリクは突っぱねるように言った。

「もう・・・ボクはいいんだ・・・お前ら、早く逃げろ!」

 

「テメエ、死ぬ気か!!」

 

バクラは思わず叫んでしまった。

このまま逃げれば良いものを。

 

マリクは一瞬驚いたような顔をしたが、次に寂しそうに笑った。

 

「いいんだ・・・どうせ・・・逃げられないんだから・・・これしかもう・・・仕方が無いんだ・・・此処に居るしか・・・」

 

今度は闇マリクが驚く番だった。

そして、嬉しそうに、本当に嬉しそうに、笑った。

 

そして勝ち誇ったようにバクラを、そして獏良を見た。

「聞いたか!?これが主人格様の本当に望んでいた事なんだからなぁ!お前らにとやかく言われる筋合いはねえよ!」

 

あははははは

 

哄笑が闇に響く。

 

バクラは歯軋りしたが、もう迷っている暇は無かった。

獏良を抱きかかえたまま、バクラは心の部屋を飛び出した。

黒い、何も無い、墓穴のような部屋を。

 

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