9日間しか休みが取れない関係で個人旅行+パッケージツアーのJTBのコースに申し込む。
全6日のコースだが、全ての日程が添乗員付きの10日間コース等の方が安い。釈然としないが仕方がない。
友達とは誰も日程が合わなかった為、母親と2人旅。
<1日目>
朝成田に向けて出発。
昼食を成田空港で食べて搭乗時間を待つ。
待っている間に各国の旅客機が滑走路に着陸するのを見ていると、本当に様々なマークが船尾に描かれている。
黒地に白抜きの月と星は、何処の国の旅客機だろうか?イスラム系なのは確かだ。
母親とパキスタンだアフガニスタンだと言い合っている中、その中でも一際目を引いたのがオレンジと青で彩色されたマーク。
目を凝らすとそのマークが鷹のディフォルメされたマークだと気付く。
鷹?
そう、それこそがこれから乗るエジプト航空のマーク、ホルスだったのだ。
遊戯王の38巻にもチラリと出ているそのマーク、何処か可愛い。
密かにホルスちゃんと呼ぶ。
エジプト航空とは言えども、乗客の殆どは日本人観光客で、客室乗務員には日本人女性もいる。
機内食は日本食も選べ、日本企業の製品を使っているのか、味もなかなか。
だが、昼食を食べた直後に機内食が出た為、食べるに食べられない。
エジプト人らしき巨漢の客室乗務員がさっさとトレイを片付けに来るので焦るが、私がまだ食べ終わっていないのを見ると、ニコッと笑い「オーケイ。エンジョイエンジョイ」
笑っていないと何処か怖いが、笑うと気さくで人懐っこいオジサンだ。
そこがいかにもエジプト人らしい。
当初は窓から壮麗な富士山の姿を見たりなどし、楽しい気分だったが、やがてあまりに長いフライトにウンザリしだす。
私は時差の関係を考慮に入れていなかった為、フライト時間を勘違いしていたのだ。
ハリウッドのラブコメ映画を見ても、後ろで臭いのキツイ酒を飲みだしたスキンヘッドの男が気になりイライラする。
エコノミー症候群にこそならなかったが、もう飛行機になど二度と乗るかと言う気分のまま15時間が経過。
夜カイロ空港に到着。
添乗員がいない為不安だが、エジプト人の担当者が空港でお出迎え。
入国手続きなどを手伝ってくれる。
彼は空港での担当者で、この他に空港からホテルまでの担当者、ホテルでの担当者と言うように細かく担当者が分かれている。
後に分かる事だが、エジプトでは観光産業の雇用を外国人に取られないように外国人がガイドをする場合でも必ずエジプト人の助手を付けると言う法律があるらしい。
この細かい担当分けも雇用創出の為なのかも知れない。
しかしカイロは寒い。
しかも雨も降っている。
空港からホテルまで案内する担当の日本人女性は雨は非常に珍しいと言いながらダウンジャケット姿。
こちらも東京と変わりない格好のまま、一緒に個人旅行を申し込んだ日本人青年と共にバンでホテルまで揺られる。
ホテルはかのヒルトン姉妹で有名なヒルトン系列のナイル・ヒルトンだ。
ホテルに着くとセイン・カミュそっくりの担当者が待っている。
しかし三日目の日程がJTBのパンフレットとは違っていて2時起きと言う日程だと判明。
怒りが収まらないが、仕方がないのでその日はもう寝る。
<2日目>
早朝起床。
ホテルのレストランでバイキングを食べる。
パンが非常に美味しい。勿論イースト菌で膨らませた通常の欧米のパン。
エジプト料理や何故か日本食まであるが、そちらには手を付けず。
7時頃バスで出発。
今度は昨日の女性よりベテラン風の日本人ガイドの女性と共に、先日会った日本人青年、更に他のホテルに泊まっていた夫婦2組と女子大生と思しき関西弁の女の子2人と共にピラミッド観光へ。
その夫婦2組の内片方の夫が例の機内で後ろの席だった酒臭いスキンヘッドの男だと分かり驚愕。
外は非常に寒い。
1年に3回くらいしか雨が降らないと言う土地柄の癖に、もう2日間連続で雨が降り続いている。
ガイド曰く、雨が降るのは非常に珍しい為、傘などは皆持っていないし売ってもいないと言う。
確かに誰も傘を差していない。
カイロ市内をバスで移動しながらピラミッドへ向かう。
途中の風景は非常に興味深い。
道路は非常に雑然としていて、交通ルールなどあってないようなもの。
それでも事故率が日本より少ないというのが不思議だ。
とにかく日本車が多く、トヨタやホンダのローマ字のロゴが目を引く。
しかしその隣をロバに引かせた荷車が普通に走っている・・・。
マンションと思しき赤土色の建物や学校が見える。
写真を撮りたいが走っている車内の為撮り辛い。
やがて建物の合間から前方に巨大な三角錐が見えてきた。
まずは最も有名なギザの3大ピラミッドへ。
眼前に実物を見ると流石に凄いが、思ったほどの感動は起きない。
前にびっしりと各国の観光バスが止まっているからだろうか。
内部に入ってみるが、とにかく狭くて暗い。勾配がきつくて屈んだり這わないと進めない場所もある。
それよりも何よりも観光客でまるでラッシュ時の電車のようになっているのがキツイ。
しかも日本人と欧米人ばかりなのだが、季節柄かとにかくおじいさんおばあさんばかりで、こちらが心配になる。
足を踏み外したらドミノ倒しで惨事を招きかねない。
一番奥の部屋まで行くが、何も無い。
ピラミッドが墓では無いと言う説はかの吉村教授が力説している事で有名だが、墓では無いと言う証拠すらも見つからない全く謎の代物らしい。
私は白き龍の一族の故郷へ帰る力を溜めておく貯蔵庫であり、また故郷への墓標だと言う説を立てたがどうだろうか(笑)
しかし天体観測に基づく遺跡群が世界中に残っているのは事実だから、そんなトンでもはありがちなネタなのだろう。
ネイティブアメリカンの遺跡でもオリオン座の形を模している物があると言うし。
それはともあれ最初にピラミッドの内部への侵入を試みたアラブの将軍は、中身が何も無くてさぞかしガッカリしただろう。
だからと言って外壁の石をモスク建設に使ってしまうのはどうかと思ったが、後で他の神殿に行って分かる事だが、古代エジプト時代から古い時代の遺跡の石を勝手に使って新しい神殿を建ててしまうのは良くある事だったらしい。
その後3大ピラミッドが見えるポジションへ。
ここでようやく遊戯王の最終巻で遊戯達が立っていた3大ピラミッドを前にしたポジションが分かる。
あの場所は入口の裏手なのだ。だが、遊戯王ではもっとピラミッドの間近だったようだが。
城之内らと同じように2人乗りで駱駝に乗る。
ツアーの一環なので「金払わねーとおろさねーだと!このサギ師!」と言う事にはならなかった。
意外に高くて怖い。
だが楽しい。
駱駝で砂漠を行く一団が見える。
その後ピラミッドに隣接する太陽の船博物館に行く。
発掘し復元された、死後ファラオが太陽神となるべく乗る船が展示されている。
アテムもこの船に乗って冥界へ行ったのかも知れないが、知った事ではない。
ここで初めてトイレチップなる物を払う。
エジプト独特のチップで、入口に立っているおばさん(でない場合もあるが)にお金を支払い、トイレットペーパー等を渡して貰う物で、1エジプトポンド(20円相当)が相場らしい。
有名なスフィンクスを見るが、どうも観光客が多すぎて雰囲気が出ない。
母親曰く、まるで動物園でライオンを見ているようだ。
とにかく砂塵なのか何なのか空気が悪くて喉がいがらっぽい。
全身黒いチャドル(?)で覆った近隣アラブ国からと思しき女性の観光客もいるが、圧倒的に多い欧米人観光客の露出度の高い事!
この寒いのに見せブラで臍出しと言う格好には呆れる。オッサンも脛毛を見せびらかすなよ。
これからエアロビをしに行くのかと言うツッコミをしたくなるようなブロンド女性と目しか出していない全身真っ黒なアラブ女性の対比が面白い。
因みに地元エジプト人の女性はスカーフにロングスカートと言う組み合わせだが、スカーフもカラフルで皆オシャレだ。
その後アトランタ五輪か何かで日本人選手と決勝で戦ったと言う有名なエジプト人柔道家の親戚が経営するパピルス屋に寄り、お土産を買わされる。
あまりのしつこい売込みに他の人は買わなかったようだが、私達親子は大型パピルスを三枚と栞を買う。
一つ目はあの女3楽士のモチーフで、以前私のサイトにその絵の事を語るメールを送ってくれた人がいた事を思い出す。
栞は「10枚買ったら3枚オマケ!」とうるさい店員に交渉して5枚買って1枚のオマケをゲット。
後ろに手書きで「HAPPY」のヒエログリフ表記を書いてくれるが、3枚ずつ分担した店のオジサンと若い女の子で書き方が全然違う。
なんか非常に素朴だが、これがエジプトクオリティなのかも知れない。
昼食はエジプト料理。
ピラフのようなご飯もの、ナンのような平べったいパン、ターメイヤと言うコロッケや烏賊や海老の焼いたモノなどが出る。
ピクルスのような漬物は非常に変わった味だったが、他は美味しかったと私は思うのだが・・・他の面々は微妙な顔つきだった。
因みにエジプトでは昼食は学校や仕事が終わった後一家揃って食べる習慣があり、昼食はいわゆる日本や欧米で言うディナーで、最もしっかりとした食事を取るらしい。
そして通常3時頃食べる物らしい。
だからか、店内は私達しかいなかった。
それにしても3時頃には仕事も学校も終わっているなんて・・・と思ってしまうが、日中が非常に暑いエジプトではこれは効率的な事のよう。
店などは涼しくなった夕方からまた再会するそうだ。だから逆に、夜更かしは悪ではないそうである。
昼食の後ダハシュールへ。
恐ろしいほど汚い田舎の住宅地の細い道をバスで行く。
子供達が素朴な笑顔でバンに手を振っている。
ギザのピラミッドより古いダハシュールのピラミッドは、観光客が殆どいない。
だからだろうか、クフ王の物よりも小さいのに雰囲気は満点。
遠目に聳える屈折ピラミッドも砂塵に翳む。
荒涼とした大地の果てにサハラが続いている。
砂はまだ礫に近く、ゴツゴツした手触り。
曇天に重厚な雲が流れ、風が強くて髪も何もかも嬲られる。
今度は内部には入らず途中の階段までで外の景色を眺めるが、そこで思わず写真を撮らせて下さいと頼みたくなるような女性を発見。
ヨーロッパから来たのだろうか。黒のドレスを纏った初老の女性。
スラリと伸びた手足とその立ち姿はとても素人には見えない。
風になびくプラチナの髪も、昔は相当の美人だったと思われる横顔も、立っているだけで絵になる女性と言うのが本当にいるのだと感心させられる。
往年の女優かモデルだったのだろうか。
夫と思しき初老の男性と共に、荒涼とした大地を遠い目で眺めていた。
またバスで、延々と続く砂で白っぽくなってしまったナツメヤシの畑を抜けてメンフィスへ。
某少女漫画のファラオとは無関係(笑)
ラムセス1世の巨像を見、発掘された像などが展示されている公園をブラブラする。
道にずらりと並ぶ土産物屋には何故か猫の姿をしたバステト神の置物ばかり。人気なのだろうか?
豆がぶら下がっている不思議な木がある。
この時は晴れていたのだが・・・。
その後再びバスでサッカラの階段ピラミッドへ。
雲行きはいよいよ怪しい。
私の裏設定では白き龍の一族からその技術を伝授されたと言う人物だったイムホテプが作った、エジプト史上初のピラミッド。
元々メソポタミア出身だったと言われる彼が手掛けた葬祭殿はエジプト風ではなく、非常に私好み。
見ているだけで心が躍ったが・・・ここで一日中降ったりやんだりしていながらかろうじて免れていた雨に降られてしまう。
ここから見えるサハラがハイライトなんですよ―・・・と言うガイドの言葉も空しい、雨に霞む大地。
大粒の横殴りの雨が風と共に吹き付ける。しかもそれは身を切るように冷たい。
エジプトで何でこんな雨に降られるのだ。
遺跡をウロウロしていたアヌビス神そっくりの犬達が、遺跡の影に隠れるでもなく次々と砂地に丸くなる。
突然の雨に対処の仕方を知らないのだろうか。
それとも、砂地の方が熱が残っていて温かいのだろうか。
その後のお土産屋の絨毯屋に行くが、小さい子を使って絨毯を織らせているのがどうしても児童労働にしか思えない。
しつこい勧誘ももう飽き飽きで、母と2人で早々にバスに引き返す。
後はホテルに戻るだけ。車中でガイドと色々な事を話す。
そこら中にボーダフォンの看板やボーダフォンショップが見えるのは、エジプトでは国営会社とボーダフォンの事実上独占状態だからだそうだ。
バスの中からカイロの街並みが見える。
林立する赤土色の四角い建物は日本で言うマンションなのだそうだが、作りかけに見えるのは、入居者が自分でドアや窓を取り付ける仕組みになっているからだと言う。
なんと言う面倒臭いシステムだと思いつつ、ここに住んだら慣れるのだろうかとも思う。
彼女はエジプトが好きで脱サラしてガイドになったようだ。
エジプトは女性一人の夜歩きも平気なほど安全だと力説する彼女。
テロなどの情報だけを信じて観光客が減ったのを悔しがる。
むしろ昔の日本のような情緒が残っている為、困っている人にはすぐに周囲の人が手を差し伸べるそうだ。
確かに思ったより安全なのは事実だが、娯楽が何も無い、と言う彼女。
カイロ中心地に近付くに連れ、嫌な臭いが鼻腔を突く。
ゴミの収集や処理が滞っているのだ。
ムバラク政権は観光業には力を入れているが、都市のインフラや教育問題などには熱心でないらしい。
ガイドが話してくれたエジプトの教育事情は寒々しい物だった。
金持ちの子供は将来観光業で有利な外国語系の私立校へ通うが、普通の子が通う公立校は公務員のあまりの給料の安さに教師がアルバイトで家庭教師をして糊口を凌ぐ状態らしい。
しかも家庭教師の仕事を確保する為、授業を範囲内までやらない教師もいるのだとか。
家庭教師を雇えない家庭の子は必然的に上の学校まで進む事も出来ず、義務教育さえ終えずに実質上働かなければならない子供もいると言う。
その子達が安い労働賃金で観光客へ絨毯を織らされているのか。
ゴミの臭いが漂う町。
法を変えてまで続投を続ける独裁的大統領の下で溜まる鬱憤は何処へ向かうのだろうか。
女性のスカーフ着用は義務と言うより都市部では「その方が結婚できるから」と言う理由かららしい。
結婚は未だにお見合い婚が多い、と言う事。
街を通るだけで3歩歩けばモスクに当たる、と言うほどモスクが多いカイロは流石中世より栄えしイスラム都市だが、お祈りの時間になっても運転手も助手ガイドも何もしない。
「出来なかったら後の礼拝の時間に2回分すれば良い。意外にゆるいのが良い所なんですよ」とガイド。
しかし結局モスク観光を一箇所も出来なかったのが痛恨だ。
エジプトのモスクは皆ピラミッドと同じ色をしている。
更に中心部に近付くと古い大英帝国時代の建物も見える。
帰ってホテルで食事。
ツアーが一緒だった同じホテルの日本人青年と一緒に、朝食を取ったレストランで食事をする。
プログラミング関係の仕事をしているらしい。
なかなか休みを纏めて長期取り、その休みを利用して世界各地を回っているようだ。
親切な好青年だが、見たままがオタク。
だがアキバ系でもアニオタではなく純粋な機械系オタのようだ。
このホテルにはこう言うオタクっぽい一人旅の日本人青年をチラホラ見かける。
その中に遊戯王が好き、と言う人がいないだろうかと淡い期待を覚えるが、所詮確かめる術も無い。
そうだ・・・遊戯王なら、別に日本人だけではない。
むしろ日本人よりも、欧米人の方が多いんじゃないだろうか、遊戯王に憧れてエジプトに来る人。
どうせ皆アテムやセトの雄姿を思い描くんだろうが、その中でいないだろうか・・・
何処かにイシュタール家の地下都市がないか探す人。
エル・クルナ村で誰かの冥福を祈ってしまう人。
国も言語も違う人達が共通の崇拝を目的に・・・って此処はメッカか。
明日早いので早めに就寝。