いつだって、彼は気に入った相手はとことん独占しなければ気が済まなかった。

抵抗すれば、殺してでも手に入れた。

死姦してまで手に入れた事すらあった。

大抵、手に入れればすぐに飽き、容赦なく捨てたけれど。

 

だが、今回はその必要すらない。

初めから、死体を犯しているような感覚。

初めの頃は確かに抵抗した。

可愛い顔して、『仲間』とやらを守る為に奮闘して、さんざバクラの邪魔をした。

手の甲まで衝いてやったけど、その後もどうしてこのリングを手放そうとしない?

 

・・・分からない。

 

今だって、妙に大人しく犯られていると思いきや、反応をきっちり返してくる。

 

何なんだよ、こいつは?

分からない分からない分からない。

 

独占したくて、こいつの微笑が他の誰かに向けられるのが堪らなく癪に障って、こいつが好意を持った連中を片っ端から人形にした。

そうすれば、周りはこいつを恐れて近づかなくなる。父親さえもこいつを恐れるようになった。

こいつは転校と一人暮らしを余儀なくされ、『オレ様だけのもの』のなった。

なのに、何故だろう?

してやった、と言う感覚がまるで無い。

どこかで・・・

自分の方がしてやられているような。

 

ゾクリ

 

バクラは自分の中に芽生えたおぞましい仮説を振り解くように、下に組み敷かれた細い身体に自分を衝き立て、何度も何度も容赦なく揺さぶった。

耐えられなくなって声を上げ、悶える姿は鳥肌が立つほど愛らしく、いじらしい。

生理的な涙で潤んだ深い海の色の瞳から、雫がほとほとと落ちる。

その扇情的さ。

バクラの方も次第に冷静な思考は失われていった。

 

もうどうでもいいか・・・今気持ち良ければ。

 

そんなバクラとは対照的に、到達しそうな体とは逆行して獏良は妙に冷静に頭の中で色無く微笑んでいた。

 

キミは気付いていないんだね。

キミがボクの無意識の願望を叶えていてくれてる事。

ボクはずっと独りだったんだ。

キミは知らないと思うけど。

周りに誰がいたって、ボクはちっとも楽しくなかった。

いつも空っぽに笑っていたんだよ。

笑っているのが一番楽だもの。

泣いたり、怒ったりするよりずっと。

 

アルビノみたいに白い髪に、見えなくていいものが見えるボク。

小さい頃はね、本当に良く見えたよ。

霊の類はもちろんね、他人の心の中までも。

その所為で良くいじめられたなあ。

小さい頃は友達なんか一人もいなかった。

いつも一人で遊んでた。

 

ボクの母さんはね、ボクが中学生の時に家を出て行った。

母さんは、ボクが怖かったんだ。

自分の子じゃないみたいだってすら言っていた。

・・・ボクが聞いていたの、知らなかっただろうけど。

 

決定打になったのは、天音・・・ボクのたった一人の妹の死。

母さんはボクが殺したんじゃないかってずっと疑ってた。

まあ、それも無理ないよね。

だって、あの時、死ぬはずだったのはボクの方だったんだもの・・・。

 

あれはボクが中学にあがったばかりの時だった。

天音は小学四年生で。

天音はボクに似てなかった。

もっと明るくて、友達もいっぱい居て、皆に愛されてて、笑うとえくぼが出来た。

母さんは天音の事凄く可愛がってた。

勿論ボクなんかより、ずっとね。

 

嫉妬して無かったって言えば嘘になる。

あの頃のボクはまだ何もかもを諦めるには幼すぎた。

今考えれば馬鹿な話さ。

でも、それはほんの出来心だったんだ。

 

あの日はボクと天音と母さんで、用事があって二人で買い物に出かけた。

その帰り道、母さんは忘れ物に気付いて慌てて来た道を引き返した。

ボクら2人は、人通りの多い交差点の歩道の端っこで、ガードレールに寄りかかり、母さんの帰りを待っていた。

早春の夕暮れは早く、黒い人波の加速は、ボクらの何とは無しの不安と退屈も加速させていった。

その退屈を紛らわせようと、ボクはふと、簡単なゲームを思いついた。

信号が赤になりきる前に交差点の向こうへと渡れるか、競争しよう。

単純な、でも危険な遊び。

天音は元気良くそれに賛同し、信号の青が点滅し出した横断歩道を勢い良く飛び出した。

ボクはハンデを付けて、それより一足遅く・・・。

 

今でも覚えている。

あの、感覚。

赤い夕暮れの落とす長い黒い影が、縞々白いボーダーの横断歩道に落ち、天音の笑い声が・・・。

ボクはその笑い声が車のエンジン音に掻き消されるのを感じた。

横を見た時はすでに遅かった。

巨大な怪物のようなトラックが、ボクの前に立ちはだかっていた。

・・・轢かれる。

覚悟は、出来た。

その次の瞬間。

トラックがもうハンドルを切っても間に合わないくらいにボクの側まで来た時。

 

トラックは不自然なくらい急激に左へと曲がった。

偶然かもしれない。

運転手がボクを避けようと必死になったのかもしれない。

それは分からない。

だって、その運転手ももうこの世にいないから。

即死だった。

 

天音も。

 

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